Alembic SSB Series Ⅰ '77

  • シェデュア/チェリー/シェデュア ボディー
  • ナチュラル仕上げ(ハイ・グロス・ポリエステル)
  • 3メイプル+2パープルハート・ラミネート・ネック(30.75inch)
  • ローズウッド指板(24フレット)
  • ゼブラウッド・ヘッド・トップ
  • ブラス・マテリアル
  • デュアル・トラスロッド
  • ピックアップ SC-1 ×2 w/ハムキャンセラー
  • ピックアップ・セレクト・スイッチ
  • 2Vol./2Low-pass filter/3-ポジションQスイッチ×2
  • 5ピン・キャノン・コネクター出力(ステレオ出力/AC電源供給)
  • 標準ジャック・ステレオ出力(18V電池)
  • ※'98年頃、標準ジャックをモノ出力に改造した
  • パワー・サプライDS-5

'95年購入。
スタンリー・クラークのトレードマークとしてあまりにも有名なアレンビック。
'73年に、チック・コリア&リターン・トゥー・フォーエバーのメンバーとして来日した彼の演奏に、完全にノックアウトされた。
ピンピンと、艶やかでしなやかな何とも魅力的な独特の音。
とんでもない早さで弾き捲る凄いユニゾン。
虜になった。
ひたすらコピーの毎日が続いた。
そしてあの音が出る不思議なベース、アレンビックのSSB(ショート・スケール・ベー ス)を探した。
当時はヤマハが輸入していて75万円。
(後にロッコーマン、そして新星堂、そして2011年現在はSleek Eliteが輸入し193万円 ほどに値上がりしている)
'73年当時グランドピアノが買える様な値段では、学生の私としては諦めるしかなかっ た。

 

以来様々なベースを使って、アレンビックの音を出そうともがいた。
出るはずが無かった。
アレンビックの音は、アレンビックでしか出せない。
独特な考え方で開発設計されて来たこの楽器は、実はなかなか曲者なのである。

 

'95年。NHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』の徳川家重役で、私は全国的に知られる様になった。
長かった収録が終わり、何とも言えない充実感を感じながら、当時JR三鷹駅からかなり離れたところにあった三鷹楽器ロックスポットに、ブラ~ッと行ってみた。
店長がベーシストのせいか、ベースの品揃えが豊富だった。
壁には高級なベースがズラリと掛けられ、フロアには比較的安いベースが所狭しと立ち並んでいた。
ふと私は目を疑った。
何やら見覚えのあるベースが、すぐ目の前の足元に立っていた。
何と、アレンビックSSBのシリーズⅠだ。
「これって本当にアレンビックですよね?」
と思わず聞いてしまったくらい、何気なく置いてあったのだ。
「これはワンオーナの委託品で36万円です。先程入ったばかりでまだ試奏していませんし、物が古いので音が出るどうかわかりませんが、付属品も全て揃っています。」
目眩がするくらい興奮した。
すぐに試奏させてもらった。
正に。正にあのスタンリー・クラークのあの音が出た。
あ~~ やっぱりこのベースでなければ出せないんだ。
もの凄い立ち上がりの鋭い音。
何と言う魅力的な音だ!!!
しかも'77年製だから、ボディーシェイプもスタンリーと同じ初期型(ウィングのえぐりが深いタイプ)だ。

 

経年変化でボディー表面に少しクラックは入っていたが、そんな事は全く気にならない。
見る角度や光の当たり具合いによって、様々な虎目の模様が浮き出る、不思議なトップ材がとても魅力的だ。
各パーツも、取り合えずどこにも問題は無さそうだ。
もう迷うこと無く買った。

 

 

'70年代独特のシェイプのボディー。 ピックアップ・セレクターの位置はフロント・ピックアップとネック下側のホーンの間。 ボディーの木目は光の当たり具合で様々な模様が浮き出る。

 

ボディー裏にはアッセンブリーのカバー。 四つの穴にはフロント/リアそれぞれのピックアップの、プリアンプ・ゲインとトーン・フィルターのシェイプの調節ネジがある。 四角いプレートはパワー・サプライが無い時のための、プリアンプ駆動用9V電池2個が入るバッテリー・ケース。

 

家に帰ると早速ロト・サウンドのスウィング・ベース弦(.040 .060 .080 .100)を張って、弦高を出来るだけ低くセッティングし、ピックアップの高さも、あの音が最も出易い位置に調整して弾いた。
狂喜して弾き捲った。

 

このベースは、ストラップピンがネックの付け根の位置にあるので、実は重量バランスがとても悪く、手を離すとヘッドが下がってしまう。
ギブソンのEB-3の形を元にデザインしたために、同じ欠陥がある。
常に右肘でボディーを押さえ込み、左手でネックを支える必要がある。
それにHi-Fiで感度の鋭いシングル・コイル・ピックアップを使っているため、しっかりと正確にタッチして弾かないと、ちゃんとした音にならない。
慣れるまでにかなりの時間を必要とするのだ。

 

ヘッド・トップはゼブラ・ウッド。 
Alembicのマークは銀製。

 

ヘッド裏もゼブラ・ウッド。 ペグはシャーラー製。

 

このベースを買って3ヶ月目くらいの'96年2月、NHK『スタジオパーク』から出演依頼を受け「何か実演して欲しい」との注文だった。
思わず「ベースギターのソロをやります」と答えた。
実は'80年に劇団前進座に入座して以来、バンド活動は一切していなかったし、人前で演奏したことも無かった。
かなり不安はあったが、この際だからこのアレンビックを弾こうと決心した。

 

生放送本番当日のギャラリーは、何と60~70代の女性が殆ど。
せめて《乗った雰囲気》が欲しいと思い、手拍子をしてもらったが、揉み手をしての民謡風な乗り。かえって台無しの雰囲気になってしまった。
がっかりすると同時に、生放送という焦りが余計に自分自身を追い込む結果となり、まだ慣れていないアレンビックでのソロは、緊張して力んで最悪の状態だった。
今思い出しても恥ずかしさで堪らなくなる。

 

しかし、この放送を観た元バンドメンバー達(全員プロになっていた)が「また一緒にやろう」と呼びかけて来て、再びバンド(フュージョン系オリジナル)活動を始めることになったのである。

 

'02年くらいまで、自分の意識の中でもバンドでも、このベースがメインだった。
メンバーからも「ヤンチャなキャラクターがピッタリ似合う」と言われていた。
バンドのリハやライヴを重ねていった。

 

その後私が、松原正樹さんや安田裕美さんたちとバンドを組んで活動する様になったため、このバンドは自然消滅となってしまった。
そしてこのベースも、キャラクターの特殊性とライヴでの音作りの難しさもあって、なかなか登場する機会が無くなってしまったのである。

 

だが自宅では散々弾いていた。
ボディーの5ピン・キャノンジャックは劣化破損したため交換。
パワーサプライも、ラックマウント式の新しいDS-5Rを手に入れ、5ピン・キャノン用ケーブルも新しいしなやかなタイプに変更した。
音に更に艶が出来て、実に魅力的だ。

 

'06年になり、セッションライヴ(当サイトgalleryのページ ライヴ写真参照)で使うチャンスがあった。
何とも楽しかった♪
我慢しないで解き放たれた様な快感があった。
ヤンチャな音や、クリスピーなタッチの魅力を楽しみながら、大いに暴れ捲った。

 

★'06.6.10. 【HOTコロッケ】にて (撮影:HOTコロッケオーナー橋本氏)

 

ところがその後、大事件が起こった。

 

このHPのInstruments紹介ページ用に、このベースの写真を撮っていた時、ほんのちょっとした弾みで倒してしまい、なんとネックがヘッドの付け根で折れてしまったのである。
愕然とした。
痛恨の極みだ。
可哀想なことをした。
落ち込んだ。
よりによって気に入った楽器に限ってよくこんな事がある、と聞かされてはいたが、まさか、こんなに大切にしながら撮影している最中にやってしまうとは…

 

早速『ラフタイム』に直しに出した。
「大丈夫ですよ。かえって音が太くなったりして、良くなるものですよ」
という言葉を信じて待った。
ビックリする程早く、二週間程で戻って来た。
折れた角度と断面が幸いして、綺麗に直ったのである。
そしてなんと、音が太くなって、更に存在感のある魅力的なベースになった♪
良かった。
本当に良かった。


2011年、【地下室の会】の仲間であるベーシスト:前田JIMMYY久史さんが、
「教則本のデモ演奏にAlembic を借りたい」と連絡して来られたので、喜んでお貸しし た。
リットーミュージックから出版された『絶対スラップがうまくなる5つの物語(CD付録) 』。
とても分かり易くしかも高度な内容の本である。
この本の Stanley Clarke のコーナーのデモ演奏で、私のこのAlembicを実にご機嫌に 弾きまくっておられる。
とても気持ち良い音で収録されていて嬉しかった。
正にSSB Series Ⅰ でなければ絶対に出ない音だ。
JIMMYさんの確かなスラップ技もお見事!!!

'73年以来憧れ続けて来たアレンビック・ベース。
'95年以降、見つける度に買ってしまい、一時期は様々なタイプを7本も持っていた。
私はやはりどうしても、アレンビックの音が好きなのである。

特にこのベースは、私を再び音楽活動の道へとスタートさせたベース。
どうしても手放せない一本である。

2014年頃から、再びよく使うようになった。
このベースに似合った曲を作って、ライブでも披露している。

 

(【地下室の会ライブ Vol.55】
ドラムは田中栄二さん 2014年8月14日下北沢CLUB251にて 写真撮影:井坂治)

 

 

実戦で使っていく内に
『コントラバス的な右手指の使い方をしないと、E弦が鳴らない』
という事も分かった。
指先だけで弾いていては鳴らない。
スタンリーの様に巻き込んで弾くと、ちゃんとした低音が出るのだ。

 

Fenderのベースの様にどんな曲にも使える「ベースらしい音」を、簡単に出す事は出来ない。
正にオリジナリティーの塊だ。
なかなか扱いが難しいのは確かだ。
でも弾き込んでいけば必ず魅力的な良い音が発見できる。
弾けば弾くほど奥の深いベースなのである。
そこが私の心を掴んで離さない堪らない魅力なのだ。

2014年に手に入れたコントラバスと共に、
再びこのベースは、私にとって重要な存在となった。

「アレンビックは使いにくい」
という多くの声を引っ繰り返すべく
オールラウンドにチャレンジしていきたい。

 

(ベース本体の写真撮影:光齋昇馬)

 

 

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