2011年12月購入。
2009年に私はジャコ・パストリアスが生前所有していた【ブラック・ベース】(Fender Jazz Bass)を手に入れた。
フレッテッドの'62年製のネックと'60年製のボディーを、ジャコ自身が組み合わせたベースである。
詳しくは Bass No.0 Jaco Pastorius's Black Jazz Bass の解説に書いてあるので見て頂きたい。
「フレットレスでこそジャコではないか」
という思いはジャコのファンであれば誰でも持っている。
思い切って【ブラック・ベース】をフレットレスに改造しようか…
と、かなり悩んだ。
しかし本人がフレッテッド仕様で使っていたのだから、そのままにしておく事にした。
それでも 【ブラック・ベース】 と同じ見た目の、フレットレス・バージョンがどうしても欲しかった。
そこで2009年、
Fender Custom Shopのマスター・ビルダーの中で最も売れっ子で、
ジョン・メイヤー、リッチー・サンボラ、ボノ、ダフ・マッケイガン等をはじめ、
数々のビッグ・アーティストの楽器を作っているジョン・クルーズに発注。
ジャコの【ブラック・ベース】を細かく撮影した写真資料を送った。
期待に胸を膨らませて待つ事2年。
ようやく届いた本機。
ドキドキしながら、もどかしい思いで梱包を解いた。
しかし、
現れたのはジャコの【ブラック・ベース】のコピーではなく、
市販モデルの【Jaco Pastorius Tribute Jazz Bass】のブラック・バージョンだった。
ボディーは激しくレリック加工がなされ、使い込まれてズタズタに削れた感じの仕上げだ。
【ブラック・ベース】とはほど遠い姿。
(No.0 の本物の【ブラック・ベース】の写真と比較して頂きたい)
しかもフレットレス指板のエポキシ・コーティングが酷く薄い。
黒っぽく仕上げてもらう注文をしていた指板も黒くなく、茶色であった。
あの特徴的な、ブリッジとリアピックアップを繋ぐアースリボンも無い。
アンプに繋ぐと常に
「ジーーーーーーーーーー」
っと激しいノイズ。
外付けのアースリボンが無いどころか、弦のアースそものが取れていないのである。
しかもよく調べてみると、ボディーの形が違う。
'60年製に比べて全体に大きく、カッタウェイの抉りが狭い。
従ってハイポジションでのコード弾きの時に、左手が入りにくい。
'60年製を再現するのではなく、最近のボディーの型をそのまま使っている。
(型の違いは初めての発見であった)
そして証明書にはなんと『'64 Jazz Bass Relic NOS』と書いてあった。
注文した物とはまったく違う代物ではないか。
ショックだった。
これはどういう事だろうか…
まあ、アメリカ人のことなので、証明書はそこらにあった印刷済みの物を使ったのであろうが。
そしてあまりに忙しくて、私の注文の写真等は見なかったとか。
(写真等の資料は確実に本人に渡されている)
或いは、
「俺はこういう風に作りたい」
というマイペースを貫いたか。
それにしても弦アースを忘れるとは…
引退したアート・エスパーザ氏や故ジョン・イングリッシュ氏だったら、もっと正確に作ってくれたろうに…
何れにしろ、私の注文とは全く違う。
山野楽器さんが
「作り直しをさせます」
と言ってきたが、
ジョン・クルーズはバックオーダーを500本以上も抱えていて忙し過ぎる。
更に何年も待たされる事になる。
他のビルダーに頼んでもちゃんと作るかどうかの保証は無い。
と言う訳で
このベースはこのまま返却せず私の手で育てる。
そして、気に入らない所は自分で改造をしていこう。
という風に、諦めをつけた。
アメリカ人に物作りを頼む時は、
個人的にうんと親しくなって、お互いがよく分かり合い信頼し合って、
そこで初めて頼むのが安全。
そして決して超売れっ子などに注文してはならない。
と、私は学習したのであった(笑)
かなり高い月謝だったが…
しかしものは考え様。
実はこのベース、
「【ブラック・ベース】のコピーのフレットレスを頼んだ」
と思わなければ、
個体としては良く出来ているのである。
流石はジョン・クルーズ
弦アースは忘れても(笑) 楽器作りの腕は確かなものがある。
全域に渡ってバランスの良い鳴り。
持った時にしっくりとくる感触。
こうなったら何事もプラス思考でいこう(笑)
早速いつもお世話になっている、日本を代表するリペアマンのF氏に電話。
細部のチェックと改造を頼んだ。
以上三点の改良を行った。
「その他はこのベースはちゃんと作ってある」
とF氏のお墨付き。
ピックアップの特性の違いから、本物の【ブラック・ベース】に比べると、
出力も立ち上がりの鋭さも劣るが、艶のある良い出音なのである。
十分にジャコっぽい音ではある。
まだ唸る様な伸びが足りないが…
育て方次第では、なかなか良いベースになりそうな気がする。
早速ライブでも活躍。
(写真撮影:梛野浩昭氏。2012年2月25日吉祥寺サムタイムにて)
やはり実戦で育てるのが一番早いと思う。
一時は返却も考えた問題だらけのベースだったが、
案外こんな奴に限って、お気に入りになっていったりするものだ。
(写真撮影:光齋昇馬)
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