Fender Precision Bass '71 NT/M JJ 

  • アルダー・ボディー 剥がしナチュラル(元はサンバースト仕上げ)塗装無し
  • メイプル・ワンピース・ネック
  • Fender Custom Shop '60s Vintage Jazz Bassピックアップ
  • 2ボリューム・1トーン

 


'78年購入。
私にとっての Precision Bass 第一号。


以来、三度の大改造に耐えて今日に至ったベースである。

 

アルダーボディーは剥がしナチュラルで塗装無し。 ピックガードの下に僅かにサンバースト塗装の名残がある。

 

オリジナルのネック・ジョイント・プレートの下に、ウェイト・プレートを挟んでいた頃の写真。 2012年現在はオリジナル・プレートを外し、Freedom社製の【Tone Shift Plate】3mmにしている。




'78年当時の私は、
'71年製 Jazz Bass SB/R (当時はフレットレスに改造していた)と、
'77年製 Jazz Bass NT/M (後に売却)
の2本だけで勝負していたが、
そろそろ Precision Bass も欲しいと思っていた。

The Brecker Broters やバリー・マニロウのバックでの Will Lee の Precision Bass でのプレイにハマっていたのである。
そのゴムまりの様な何とも弾力性に富む音にやられていた。
本人が何年製のどんな PB を使っているかなど全く調べていなかった。

 

そんな折、当時吉祥寺の丸井のお向かいにあった『ヒワタリ楽器店』('70年代から'80年代は殆どこの店で楽器を購入)に、 中古でこのベースが入荷した。
既に前の持ち主の手で元のサンバースト塗装は剥がされて、薄いオイルコーティングのナチュラル仕上げになっていた。

鼈甲柄のピックガードは全面黒く塗りつぶされており、ハードケースさえも付属していなかった。
しかし元気な出音が印象的だった。
弾いてみてそれほど違和感は無い様に思えた。
値段もかなりお安くお手頃だった。

 

 

「じゃあ買ってみるか」
という安易な感覚だった。

 

'70年代初期の大きなデカール

 

弾き込んでいく内に、ネックが幅広く太すぎて、とても疲れる事に気がついた。
Jazz Bass の細くて狭いネックに慣れていた私の手にとって、かなりの負担だった。
たまにWill Lee をやってみたくなると弾いては、疲れる…と思っていた。
それに、'71年製独特のエグイ音にどうしても馴染めなかった。
それから何年も弾かずにケースに収まっていた。


'97年頃だったろうか…

ジョー・サンプルのバンドでジョン・ペーニャが、Precision に Jazz Bass のリアピックアップをプラスして、 ご機嫌な音を出しているビデオを見た。
かなり映像が荒いためハッキリとは分からないが、確かにリアにJピックアップが見える。
何と言っても音がカッコいい。
「私のPrecision もピックアップを PJ にして、ネックも削って細く薄くしたら、ひょっとして面白いベースになるのではないか」
と思い立ち、当時お世話になっていた三鷹の楽器屋さんに改造の相談をした。
話し合っている内にどんどん夢が膨らみ、
「PJJ にして、リアの JJ をミニスイッチで自在に切り替えて、様々な音を出せる様にし、 エグイ音の癖を【バダスⅡブリッジ】で軽減する。ネックは可能な限り限界まで削る」
ということになった。

'97年の【第一次改造】である。

 


細身に削ったネック。

 

出来上がって来てみると、ネックが気持ち良くてに馴染み、なかなか弾き易くなっていた。
しかしリアピックアップの音が気に入らない。
ポジションが悪い。

 

ここまで来たらとことんやろう。
そこでザグリを入れて、リアピックアップを移動させた。

しかし音は落ち着かなかった。
仕方なく更にザグリを入れて移動させた。
それでもイマイチ良い音にはならなかった。

 

大きく口を開けたザグリの中で、リアピックアップを何度も移動させて試した。
どうしても良くはならなかった。


結局はリア用に選択したVooDoo のピックアップが、Fender のオリジナルPと合わないのだろう という結論に至ったが、もうボディーには大きな穴が開いてしまっていた。
無惨であった。





'97年~'09年、大きなザグリが入ったリアピックアップ周辺。 ピックアップは PJJ の配置。 3wayミニスイッチはリアピックアップ専用のフロント/ミックス/リアの切り替え。



大きく穴が開いても、このベースのPピックアップが持つ基本のエグイ音は全く変わらなかった。
このエグイ音こそが、正に'71年製の Precision Bass の音なのである。
根性のある奴である。
しかし、またケースに収まったままになった。




そして2009年7月。 【第二次改造】
日本を代表するリペアの名手F氏に頼んで、再度改造をした。

リアピックアップはFender Custom Shop製の'60sビンテージJJ。
フロント/リア用を二つともをくっ付けてリマウント。
幸いな事に、バダス・ブリッジに刻んだ弦間の幅と両ピックアップのボビンの位置が、上手い具合に外れずに済んだ。
そのフロントボビンの位置を'62年製Jazz Bassの位置にマウント。
三つのコントロール・ノブはJazz Bass と同じフロント・ボリューム/リア・ボリューム/トーンである。
その結果、音が落ち着いた。
FenderのベースにはFenderのピックアップ。
どうやらこれが一番近い答えだった様だ。
なかなか魅力的な音と弾き心地になった。

 

'09年まではまだピックアップはPJJの配置。


このダブル・コイルのリアは

     
  • フロントJ : ジャコっぽい音。
  • リアJ : Alembic のリアっぽい音。ハーモニックスが強力に出る。
  • J+J : ハンバッカーになりKen Smithのリアっぽい音

更にフロントPとのミックスも夫々なかなか個性的。

     
  • P+前J : 所謂PJの音
  • P+後J : Alembic のミックスのリア寄りにパンチを効かし、ちょっと腰の入った様な音。
  • P+JJ : Alembic のミックスのリア寄りに Music Man Sting Ray を混ぜた様な音。
       

かなり個性的なベースになった。
とはいえ、実際に使うかどうかというと…
ちょっと疑問に思えた。



そんな時である。


例のジョン・ペーニャが'97年頃にサンタナと共演している鮮明な映像を手に入れた。
なんと、彼のPrecision Bass のピックアップはPJではなく、JJであった!!!
しかもコントロールノブが4つあり、どうやらプリアンプ内臓の様だ。
どうりで Jazz Bass としか思えない音がしていた訳だ。
ショックというか、なるほどというか…
心が大きくざわめいた。




2010年 【第三次改造】


「こうなったらこのPrecisionを Jazz Bassにしてみよう」
と思い立ち、またF氏に頼み込み、J+JというJazz Bassのピックアップ・レイアウトに改造してもらう事にした。


ピックガードはJピックアップ専用のオリジナルを新しく作った。
そしてリア・ピックアップのザグリ穴はきれいに埋めることにした。
アルダー材は巨大な板しか売っていないため、ウォルナットにした。
中低域に優れた特性のある材なので、リアに使うには問題無いという結論。
色が全く違うが、それもまあ個性の内、と考える事にした。
そして肝心のピックアップは、Fender Custom Shop の '60s Vintage Jazz Bassをマウント。
減り気味だったフレットも少し太めの物に全て交換。
バダスⅡブリッジはそのまま使い、どちらかというとモダン系の音を狙った。
オリジナルの分厚いコーティングがなされていた指板も削り、表面は薄くて堅いと塗装にした。



      

2010年9月。


ついに出来上がった JJ Precision Bass はなかなかご機嫌♪♪♪



 

大きなザグリのあったリアピックアップの穴にウォルナットの板を埋め込んだ。
Jピックアップ専用のピックガードを作り、新たにJJとしてピックアップを設置。
もちろんリアは'62年のJazz Bassの位置。
コントロールはJazz Bass と同じフロント・ボリューム/リア・ボリューム/マスター・トーン。

 


音は Jazz Bass だが、ボディーは Precision。
だからか Jazz Bass より低音成分が太い。
『ふくよかな Jazz Bass』
といった感じだ。
歯切れ良く、どのポジションを弾いても痩せたところが無い。
これは実にナイスだ!!!
リア・ピックアップが'62年 Jazz Bass の位置だから、
お約束のあの音が出る♪♪♪
フロント・ピックアップはJazz Bassそのものの位置。
Jazz Bass の場合がフロント・ピックアップだけでプレイしていると多少の違和感を感じるが、 Precisionのボディーだからフロントだけの音でも違和感が無い。




2010年12月12日 Birthday LIVE
(吉祥寺【サムタイム】にて)



 

ライヴでも使い、とても演奏し易かった。
なんとついに、とてもお気に入りの一本になってしまった。

'78年に購入して以来長い間、随分といじくられてズタズタにされて
それでも気に入られなくて
しかし無惨な姿故に、売ろうにも売れなくて
何とも中途半端で気の毒な一本であったが
33年経ってようやくちゃんと弾かれる立場になったのである。

温かみのあるナチュラルな木の色が好きだし、薄いオイルコーティングは木そのもの
の肌触りが心地良く、抱き心地がとても良い。
そしていつでもしっかりと自分の音を出す根性のある奴。

これからは大いに活躍させて可愛がっていこうと思う。


(写真撮影:光齋昇馬)

 

 

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