'01年購入。
Fender Custom Shopのギター職人の中でも、マスター・ビルダーと呼ばれる数人のルシアー。
その中でも重要な位置にいたベテラン職人ア-ト・エスパーザ。
彼がAmerican Strato Deluxeを基本にして作った1本。
私はどちらかというと、Gibson系のギターが好きだったが、Fender系の音も欲しかった。
学生の頃に、友達のストラトを借りて録音した時の、枯れた情感のある音が忘れられなかった。
そこでヴィンテージを扱っている店をあちこち回り、色々とストラトを弾いてみた。
先ずはヴィンテージから、'57年製、'62年製、'64年製、'68年製…
どれも素晴らしいが、結構こなし難いし、何と言っても値段が高い!!!
そんな時に山野楽器サウンドクルー吉祥寺にあったのがこの1本。
様々なストラトが何本も並ぶ中に、ストラトらしからぬモダンな雰囲気が目を引いた。
ハッキリと虎目の出た美しいフレーム・メイプル。
これでもかと粒目の出た、迫力のバーズアイ・メイプルのワンピース・ネック。
綺麗なチェリー・サンバースト仕上げ。
手に持って先ず驚いたのは、ネックの握りの良さ。
吸い付く様にピタッと心地良いフィット感。
ヴィンテージでは感じられなかったしっとりとした一体感。
ボディーもしっくりとくる丁度良い重さ。
ピックアップはモダンな音が出る。
しっとりと爽やかな音だ。
フレットが太めなせいか、Gibson系に慣れた私にも違和感が無かった。
と言ってもやはりストラトそのものの、あの音である。
カッティングをしてもソロフレーズを弾いても、思った通りの音が出る。
少し歪ませると、情感を乗せ易い心地良い音になる。
『ストラトは難しい』という私の勝手なイメージを払拭させてくれた。
アーミングもやり易く、狂い難い。
何と言ってもネックが気に入った。
ヴィンテージに比べれば、まだいくらか値段が下だったので買う事にした。
以来私はGibson系よりも、Fender Stratoをより多く使う様になった。
このHPに流れる私の曲の″John The Spider″は、このギターで作曲し録音した。
ピックアップ間のハーフポジションでの、クリスピーな響きの魅力はストラトならではだし、各々のピックアップでの音の立ち上がりも、伸びも、切れも、思い通り。
何と言っても弾き易く、音のコントロールがし易いところが最大の魅力である。
もちろん見た目の派手さ、気品も忘れてはならない。
私が日頃大変お世話になっているギターリストの安田裕美さん(山崎ハコさんの旦那様)が、このギターをとても気に入ってしまい、ライヴでお貸ししてから暫くの間拉致されたままだった。
超一流のミュージシャンが惚れ込むのだから、本物である。
今も安田さんに私のライヴに出て頂く時は、いつもこのギターを使ってもらうことにしている。
'04年だったか…
作者のア-ト・エスパーザが来日した。
そして何と、山野楽器サウンドクルー吉祥寺に来店した。
残念ながらその場に居合わす事は出来なかったが、店の人に頼んでこのギターのヘッド裏にサインをしてもらった。
私の本名で書いてもらおうと
″To Shin-ichi″
と頼んだつもりだったが、説明が上手く伝わらず
″Shin 1″
となってしまった。(^^;)
でもこれもご愛嬌で、なかなかの味である。
実は私はその後、ア-ト・エスパーザに'64 Jazz Bassを作ってもらったのである。
一年後に出来て来たそれは、正に'64年製のJazz Bassの音の特徴を見事に再現した物だった。
彼の耳は本当に、抜群に確かなのだと思った。
しかし、注文した時に'64年製のJazz Bassをよく理解していなかった私にとって、独特の響きを持つそのベースの音が、どうしても好きになれなかった。
そして「この音が好きな人に使ってもらった方が良いだろう」と思い、売ってしまった。
ア-トの真の実力を分かっていたら'64年ではなく、迷わずに'62年を注文していた。
私の好みの基本は、何と言っても'62年製のJazz Bassの音である。
ア-ト・エスパーザは現在、身体を壊してギターを作っていない。
痛恨の注文間違いだった。
そんな経緯もあり、このギターは私の宝物である。
テレビドラマの『温泉若女将』のシリーズでも何度か登場している。
もちろんライヴには毎回登場している。
このギターはこれからも大活躍するであろう。
(写真撮影:中村梅雀)
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