Ovation Custom Legend Deep '80

  • シトカスプルース(トップ)
  • リラコード(グラスファイバー)・ディープボール(バック)
  • メイプル・ネック(25 1/4 スケール)
  • エボニー指板
  • カスタム・レジェンド・アバロン・インレイ
  • カーブド・ウォルナット・ブリッジ
  • 24kゴールド・チューナーw/パール・バトン

 

'80年購入。

 

トップ材はシトカスプルース。(ブリッジ下部の縦筋は割れを修復した跡) ボディー・トップの縁と、エボニー製の指板を飾るカスタム・レジェンド・アバロン・インレイ。

 

サウンドホールを飾るカスタム・レジェンド・アバロン・インレイ。 そしてウォルナット製のブリッジ。

 

リラコード(グラスファイバー)製のディープボールと呼ばれる深いタイプのボディー。 足に乗せる部分に滑り止め加工がしてある。

 

 

Ovationギターを初めて見た時はびっくりした。
何でボディーのバックが丸っこくなっているんだろう?
何で出来ているんだろう?
何だかオモチャっぽいな…
等と思っていたが、'70年代には爆発的に世界に広まった。
有名アーティストが次々と使う様になるのを見て、興味が湧いた。

ヘリコプター製作会社「カーマン・コーポレーション」の社長チャールズ・カーマンが、趣味のギター(大変な名手らしい)に、プロペラに使っているグラファイト(グラスファイバー)をギターに使ってみようと思いつき、会社を作ったのがOvationの始まりであり、世界初のエレアコの誕生に繋がるのである。

しかし、私はエレアコとしての音は気に入らなかった。
生音とは程遠い。(それはそれで別物のジャンルと考えれば良いのだろうが…)

Ovationの生音としての魅力を知ったのは、大好きだったリターン・トゥー・フォーエヴァーのギターリスト、アル・ディ・メオラのプレイだった。
クッキリとした艶やかな輝きのある音。
曇ったところが無く、しなやかで張りがある。
その音はアル・ディ・メオラのプレイに正にピッタリとフィットしていた。

田園コロシアムの【Live Under The Sky】に初来日した時も、生音をマイクで拾っていた。
使っていたのが Custom Legend であった。

もう欲しくて欲しくて堪らなかった。
しかしなかなかのお値段だった。

その頃の私は、桐朋学園大学附属短期大学部芸術科演劇コース9期を卒業し、日本舞踊と長唄と義太夫、茶道、習字等を徹底的に修行しながら、【中村まなぶ】という芸名でテレビや映画に出演していた。
これは私の最初の芸名で、9歳の初舞台の時に祖父中村翫右衛門(かんえもん)がつけた。

そして'79年から'80年にはTBSドラマ『三男三女婿一匹パートⅢ』にレギュラー出演していた。
森繁久彌さん、杉村春子さん、山岡久乃さん、関口宏さん、山城新伍さん、井上順さん、志穂美悦子さん等、てんこ盛りのキャスティングのドラマであった。
私の役は、森繁久彌さん演じる医院長のニューヨーク在住の親友の息子。
親友から「日本で鍛えてくれ」と言われて預かった【居候】である。
クリクリのパーマ頭でフラフラと遊んでばかりいるし、部屋で大きな音でドラムを叩き捲ったりギターを弾いたり、周りの迷惑は全く気にしないという青年だ。
そんな彼が母親代わりの様に日々世話をしてもらっている、山岡久乃さん演じる婦長さんの誕生日に、曲をプレゼントする、というシーンがあった。

「これぞ幸い絶好のチャンス!」
とばかりに母親におねだり。
「ドラマのために必要」という大義名分も利用して、私のギャラ(まだ社会人ではなかったから親が管理していた)を少し使わせてもらい、ついにOvation Custom Legend を買った。
当時吉祥寺にあった『ヒワタリ楽器店』で取り寄せてもらった。

ケースを開けると良い香りがした。
Custom Legend はキラキラと光っていた。
チューニングをしているだけで、クリアで張りのある音が部屋に広がった。
それまで私の持っていたアコースティック・ギターは、モーリスの\23,000のフォークと,YAMAHAFG-2500という12弦ギター(名機である)だった。
Ovationは圧倒的に鳴りが良かった。
ネックがとても良く手にフィットし、気持ちが良い。

喜んでアル・ディ・メオラごっこを始めた。
弾き易い。
早弾きが簡単に出来る様な気分になる。
更に弾き易くするためにブリッジ下のプレートを減らし、弦高を低くした。
素晴しい♪
クリアできらびやかな音に興奮した。

早速ドラマ用の曲を作り、本番で披露した。
曲も良く出来たが、Ovationの音はマイクとの相性も良く、なかなか評判が良かった。
ドラマの最終回では私のこのギターでの演奏で、レギュラー出演者全員が『春一番』を大合唱した。

そして、このギターで更に自宅録音を続け、ボブ・ジェームス風の曲にアル・ディ・メオラ風のソロをフューチャーした【Spring Winds】という曲も生まれた。(CD化はしていない)
Custom Legend 特有の深くて明るい音色がとても気持ち良い曲だ。

私が'80年11月に劇団前進座に入座して、急に忙しくなり、このギターはそれ以後かなり長い間ケースに収まったままだった。

'95年からはマスコミの仕事が急増し、'00年からはプロベーシストとしての活動も開始。
私の楽器コレクションの事が、ミュージシャンの間でも少しずつ知られる様になった。
音楽雑誌『Player』の'03年5月号の〔My Dear Partner〕に6ページにわたって中村梅雀特集が組まれることになり、殆ど全ての楽器コレクションをスタジオに持ち込んで写真撮影した。
この時に久しぶりにケースを開ける事になった。
事前に自宅で確認した時、何と、トップがブリッジからテールにかけて、バックリと真っ二つに割れていた。

何と言う事だ…
ショックだった。
直るだろうか…

すぐにギターリストの安田裕美さんに聞いてみたら
「大丈夫。リペアの名人を紹介するから。」
とのこと。
ともかく預ける事にした。
だからその『Player』誌にはこのギターは載らなかった。
残念であった。

それから待つ事3年。
ようやく直って帰ってきた。

 

ヘッドのトップ材はマホガニー。 トラスロッド・カバーはウォルナット製。

 

マホガニー/メイプル5プライネック(25 1/4 スケール)。
ペグは24kゴールド・チューナーw/パール・バトン。

 

元々トップ材は生木の白っぽい色だったのが、艶やかな飴色に変わっていた。
割れた痕は、見事に修復されていた。
そして何と、音も、弾き易さも、前以上に良くなっていた。
安田さんが
『全てを俺と同じ調整にしてもらったから、弾き易い筈だよ』
と言っていた通りだった。

一時はOvation に興味が無くなり「ちゃんとした木製のギターで良い物を買わなくちゃ、本物の音じゃないな」と思っていた時期もあり、戻って来たら手放そうと考えていた。
しかし直って来たCustom Legend はやっぱり良い音であり、弾き易いし、愛着がある。
これはやはり弾かなくては。

今後、アコースティック・ギターを買うこともあろうが、こいつは手放せない一本である。



(写真撮影:光齋昇馬)

 

 

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